有機農業の夢は「提携」を凌駕するという好記事

有機農業研究会的には「有機農業といえば少量多品目提携型有機農業」という感じで、多くの研究会では「提携」が金科玉条のようにが謳われています。
しかし、実際に提携で食べていくのは時代とともに難しくなってきたようです。
昔よりも同業者も多く、便利な宅配業者も顧客はいくらでも選べる時代です。
そこをなんとか突破するにはそれなりの環境や条件や特化した才能が必要のようですが、
そうでない場合、「提携」が若手生産者を縛り付けている感じも否めません。

しかし有機農家にとって本当に大事なものが何かを考えた時、「提携というものが単なる手段でしか無い」という発想に辿り着くこともあります。
私達にとって大事なのか、何を本当に守らねばならないのか、何のために大地に挑むことを選んだのか―

今回、2012年9月発行の長野県有機農業研究会会報No,78に掲載された会員の石川徹さんの記事より、若くしてそのことに気づきスピード感あふれるダイナミックな路線転換を成功させ就農を軌道に乗せたその考え方と具体的方法をご紹介させて頂きます。
 

会報では反映されないブログ記事ならではのコメントなど頂ければ幸いです。
尚、本文は石川さんのご了解の元転載させていただいております。

 


技術連載 作付けの組み立て方~私の場合~

佐久市 やさいの森 代表 石川徹

■皆さん、こんにちは。

佐久市(旧望月町)で両親と共に就農して8年目になる石川徹です。今回、技術連載のお話を頂いたものの、正直これと言って特別お伝えできるような技術なんてないよなぁと弱っていました。が…それでも、せっかく頂いた機会ですので、自分なりに話せそうなテーマを選び、お話しさせていただきたいと思います。テーマは私なりの作付けの組み立て方についてです。まだ発展途上ですし、技術論というよりむしろ経営に寄った話になってしまいますが、多少なりとも参考にしていただける部分がありましたら幸いです。
 
■はじめに。そもそもこの考え方に至ったきっかけ。
就農1年目、やっとの思いで有機農業を始め、少量多品目で好きな野菜を好きなように作りました。思いの外、野菜は上手くできました。しかしながら、売り方で苦労し、思うような収入を上げられず、結局、秋から冬にかけて蓼科で住み込みバイトを余儀なくされていた私は、頭の中で次のような課題に向き合っていました。(暇な時間の多いバイトでした)
「長野の高冷地で(標高950m)、有機無農薬での野菜栽培。野菜ができても満足な売り先がない…直売所に出荷するものの、なかなか上手くいかず…一体これからどうやって生計を立てていけばよいのか?」
 

■自分なりに出した答え。

結局、その時色々考えたことに加え、その後数年がかりで試行錯誤を繰り返す中で自分に合ったやり方が見えてきました。以下要点を並べてゆきます。
高冷地⇒冬寒い・期間が限られてしまう。⇒夏場に集中するべき。
⇒まず、収益性の高い果菜類を作付・経営の中心に据える。
②期間をできるだけ延ばすために春秋に葉物野菜・根菜類を組み合わせる。
③ 繁忙期には収穫人員を確保できる体制を作る。
④ 前提として契約出荷できる売り先を確保する。
 
■8年目現在の形、具体的には…
試行錯誤、改善を繰り返す中で今のスタイルに至りました。
①経営の二本柱⇒ズッキーニ(100a)、いんげん(40a)、次いでミニトマト(5a)
②春作⇒ほうれん草(20a)、レタス(30a)  秋作⇒ほうれん草(15a)、カブ・大根類(20a)
③拠点施設Kasugaiを開設(最大15名収容可)写真参照。
④これは、有機生産者が多い東信地区という地域性・ご縁に恵まれました。出荷グループへ所属、先輩農家さんから販売先を紹介頂いたりしながら、徐々に販路確保。おかげで現在5、6か所の軸となる取引先が見つかりました。ちなみに昨年度よりJAS認証を取得しています。
 
 

■図表を見ながら、もう少し説明していきます。

表 選定作物と収穫時期

  4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月

法蓮草

       
レタス              
葉物・根菜            
ズッキーニ        
インゲン          
ミニトマト          

 

まず、収益性の高い果菜類を作付の中心に据えます。ここではズッキーニ、いんげん、ミニトマト。
続いて、春秋の空いている時期にほうれん草、レタス、葉物・根菜等を作付けます。
選定基準としては、①販路がある。②無農薬でも比較的作りやすい。③収益性が高い
という点がポイントになります。さらに、宿泊施設を開設し、柔軟に人手を確保できる体制ができているため、それを強みとし、あえて収穫・出荷に手のかかる作目に力を入れています。
 

図 収穫ピークイメージ図 

比較的冷涼な気候を好み、未熟果を収穫する夏作の果菜類という点では共通するズッキーニといんげんですが、収穫のピークに関しては異なる動向を示します。
ズッキーニ:種まきから収穫までの期間が短く、6月半ばからの収穫可能。7月、8月前半辺りまでがピーク。現状ではお盆過ぎは一気に樹が傷み収量が落ちてしまいます。
いんげん:7月半ばからの収穫。作付タイミング次第で、9月にもピークを持ってくることができます。
両者の違いを考慮し、夏作の前半をズッキーニメイン、後半をいんげんメインという位置づけにするとある程度ピークのバランスが取れます。
またそれぞれ3~5回に分けてずらし播きすることで、ピークの長期化、平準化を見込めます。
とは言え、7月下旬から8月上旬にはどうしてもピークが重なってしまいます。収穫の手が間に合わない場合は思い切って、いんげんの一部に見切りをつける選択肢も。
両作物とも発芽率がいいので、基本的には直播でも大丈夫。ただし特に重要な最初と最後の作は苗で作付。補植用の苗も十分な量を用意。とにかくタイミングを逃さないということを重要視。
   
 

写真:拠点施設Kasugai

スタッフ、研修生、アルバイトのメンバーが住み込み利用。最大15名ほどの宿泊が可能。最短で1週間~10日間程度の勤務から受け入れできるのは、やはり無農薬いんげん栽培と受け入れ型農業の相性がいいからでしょう。初心者でも、すぐにいんげん収穫の戦力になり得ます。今後、Kasugaiを活用し、学生・若者向けの農園合宿も開催していく予定です。

■土壌分析・施肥・資材についての考え方

ジャパンバイオファームの小祝先生と、土の会の池上先生の両方の勉強会にある程度の回数参加させていただき基本はそれなりに理解しているつもりではありますが、今の自分のスタンスとしては、普段は土壌分析にはあまり頼っていません。塩基飽和度、塩基バランスがある程度保たれているのを確認できればそれで十分という程度です。
施肥としては作物・畑の状況に応じた量の窒素と、カルシウム、マグネシウムを少々、あとたまに微量要素資材を気休め程度に。窒素分は発酵鶏糞主体。ズッキーニ、いんげんは窒素を切らさず、物理性もよければ、そこそこ取れるし、比較的作付も容易なので、長期取りで反収を上げるというよりは、必要なものを切らさない適度に与え、あとは樹の老化に伴い新しい畑にどんどんシフトしていく考え方。
加えて最近、樹を活性化する一助になればと酵素資材を少し使い始めています。
 
 

■最後に、モノカルチャー?パーマカルチャー?あり方について。

 
中にはご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、私は就農2年目の農閑期に、オーストラリアに1か月程の期間滞在し、WWOOFホストの農家さんのもとで農作業のお手伝いをしたり、パーマカルチャーのコミュニティーを回ったり、様々な素晴らしい経験をすることができました。
帰ってきてからは、有機農研のイベントとして、オーストラリアでの経験をもとにパーマカルチャーの現場を報告させていただく機会もありました。
実はそもそも、私が有機農業の道を志したのはパーマカルチャーの存在が大きかったんです。こんなスタイルの農(業)があるのかと感銘を受けた記憶は今もなお鮮明です。
 
しかしながら、今回お伝えした私が今実践している有機農業は、いかにもモノカルチャー農業です。
複数品目の組み合わせでシーズンを回していますが、ある時点で1枚の畑を見た時、1反歩、2反歩の畑に一面ずらーっとズッキーニやいんげん、レタスが植わっているのです。これは自然界から見たらとても不自然なことです。
それでも、自分は今のあり方を良しとしています。
自分にとって今大切なことは、自然を再現することではなく、経済の流れの中でしっかりと価値を生み出し、自分自身そして家族・仲間・周りの人々が持続可能な存在として生きるということです。
その上で、できることから一つずつ始めてゆきたいと思います。来年はまず鶏を飼いたいですね。
ズッキーニのはぶきの山が卵に変わるのを想像するととてもわくわくします。
パーマカルチャーの農園は自分のもっと先の夢としてとっておきたいと思います。
 
技術連載が最後は自分の夢の話になってしまいました。
長文にお付き合いいただきありがとうございました。
新規就農希望の方等には就農相談にも乗ることができます。どうぞ遠慮なくご相談ください。
またご意見・ご感想・アドバイスなどもいただけましたら幸いです。
今後ともどうぞよろしくお願い致します。
 
 
 
(2012年9月発行の長野県有機農業研究会会報No,78より転載 図・書式など一部転載者の変更あり)

 


有機農業の夢は「提携」を凌駕するという好記事” に対して5件のコメントがあります。

  1. 片山大 より:

    機会があって、提携について調べていて関谷さまの記事にたどり着きました(以前はたいへんお世話になりました)。
    少量多品目から中量中品目への移行の事例としてたいへん興味深いです。
    経営を持続可能にしてから、パーマカルチャーを目指すの共感しました。

  2. 五島 隆久 より:

    神戸市西区の新規就農8年目の有機栽培農家です。石川さんと同じく小祝氏に師事しました。兵庫県は、有機農業発祥の地と思えるくらい有機先発地域ですが、同時に生協の発祥の地でもあり、意識の高い消費者の多くいた?地域です。そのことが後の有機栽培の足かせになったようです。私は、提携の呪縛にとらわれることなくデパ地下の生産者となり不特定多数の消費者により多くの有機野菜を届けることを使命と考えております。石川さんのように体系づけた作付計画はまだできていません。是非、今後情報交換をお願いしたいとメールしました。

    1. 後藤様、はじめまして!コメントありがとうございます。おっしゃる内容理解出来ます。昔からの意識の高い消費者に認めていただくのと、デパ地下のお客さんに認めてもらうのでは180度くらい野菜に求められるものは違いますよね。私も五島さんと同じ方向だと思います。今後とも宜しくお願いします。

       

  3. 萩原紀行 より:

    石川さん、すごいですね。関谷さんのタイトルも秀逸かと思います。もともと、提携は有機農業のスタイルを縛るためではなく、当時、市場出荷のみの農産物流通から解放するための優れた手段だったはず。

    現在は、有機農業のスタイルを縛ってしまう側面を持っているのでは。提携型有機でやっていける人は、実は非常に限られた人であるという現実を有機農業界は認めた方がいいと思う。

    有機農業が提携からスタートした歴史は素晴らしい。そこから僕らの世代は、どう展開していくのか。石川さんの手段は一つの優良な前例になりますね。

    大先輩である市川さんが、こういうコメントをされていることはすごいことです。頭の柔らかい先輩がいる地域は、のびのびと後進が育ちます。自分が市川さんくらいの年齢になったら、こうでありたいです。

  4. 市川勝彦 より:

    石川氏の経営論、のらくら農園の技術論、このような取り組みは、専業を目指す人には是非読んでもらいたい文章だと思います。いつまでたってもヘッポコ農家の私も、改めて勉強になり、刺激を受けました。阿智の販売グループのメンバーにも紹介しました。

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