ノウハウを300個つまみ食いする前に読むべき。書評「東大卒、農家の右腕になる。――小さな経営改善ノウハウ100」
農家の右腕だけでなく右腕を持つ人にも良本
この本はスタッフ寮に置いてバイトの人にも読んでもらえればいいかな?と思い電子書籍ではなく紙本で購入しました。
バイトの中から右腕になってくれる人が出れば儲けものです。
著者のファームサイド株式会社 代表取締役 佐川友彦さんとは個人的にお会いしたこともあり、
既にオンラインメディア阿部梨園の知恵袋 | 農家の小さい改善実例300 by 阿部梨園 でも細かいノウハウが公開されてるので、
経歴なり内容なりは理解していたつもりでした。
でも本を読むとまだまだ経営者として理解が足りなかったことに気が付きました。
まずは、オンラインメディア「阿部梨園の知恵袋」でノウハウを300個つまみ食いするよりも前に、
この本で、根底に流れる哲学を理解すべきでしょう。
農家の右腕になるためにも農家の右腕を持つためにもおすすめの本です。
メインはノウハウではなく哲学
そういう意味ではこの本の中程に、あえて紙の色まで黄色に替えてある
「9つの仕事術」
「農業経営9か条」
この2つは超重要です。
この2つの哲学・ルールに基づいてるからこそ
100も300もノウハウがあってもチグハグにならず、
それぞれのノウハウが体系的でなくても軸足がぶれないのでしょう。
前章の佐川さんの経歴からこの哲学が生まれ、
この哲学から沢山のノウハウが生まれていることを考えれば、この2章だけでも十分に読む価値のある本です。
マクロ脳を捨てよ
特に私は「9つの仕事術」の1番目に来ている
「マクロ脳を捨てる」は大事です。
ここで言うマクロとは、政治や経済など社会問題についての大局的なことです。
環境問題、農業問題など、農業問題を分解すればTPP問題、遺伝子組み換え問題、種苗の問題、有機農業VS慣行農業のようなことです。
「社会正義の話」といっても良いかもしれません。
農業を志す人には、私もそうでしたが、社会正義の追求を動機のとしてる人が多いと思います。
「とりあえず、そういうマクロな話は置いておけ、気になるならそもそもそういう情報は収集しない。忘れろ。」
「もっとミクロな、自分の周りのこと、家族や職場、目の前の土や野菜に集中しろっ!」
そういう大事なとこをまず押さえてからノウハウを読みすすめるのが良いでしょう。
改善ノウハウについて
そして紹介されているノウハウですが、
新規就農して、特に多品目宅配などをやってる農家ならばどれもこれもやったことのあるものばかりです。
こういったノウハウをクリアできてこそ本業に打ち込めます。
が、しかし、やろうと思っても出来ないことばかり、やったとしても正解にたどり着くまでに試行錯誤の繰り返し、
「やったことはあっても、やれた者は少ない」
このバックオフィス業務をできるできないかが新規就農多品目直売農家が成功するしないの分かれ目です。
あさひや農場はそこに疲れちゃったのも慣行JA出荷に切り替えた理由の一つでもあります。
JAは農家のバックオフィス機能をだいぶ肩代わりしてくれます。
とはいえ、コスト削減、人員確保は農協出荷でも必須の業務。
結局はここら辺がしっかりしてるかどうかで利益率や労働環境の改善にも差が出てくるわけです。
そんな時にこの本を読み返して、当時試行錯誤してたところに惜しみもなく答えが出てるので、
この冬にでも一つ一つ改善し直そうと行くきっかけになりました。
これから農業を目指す人にはぜひ読んでほしい
これから農業を始める人、特にバイトや社員から始める人には読んでほしいです。
多くの農家にとっては、この本位書かれてるような生産技術以外の分野は得意ではありません。
特に農業どっぷりな農家ほど生産以外の点は疎かになります。
だからこそ非農家からくる人間のそれまでの他産業での仕事や経験はとても貴重なものです。
他産業では当たり前のことが、農業ではまだまだ未熟だったりします。
これから農業を始める人は、いま赴いている仕事や職場から色々吸収しておくべきです。
農業したての人間が生産技術で農家に助言で役に立つ可能性は低いですが
他産業で培ってきた技術なら農家への助言も有効かもしれません。
これから農業の現場が法人化・大規模化するにつれ、経営者よりも農家の右腕になれる人の需要は増していきます。
その時に、農業の門を叩く人はただの新人農業スタッフではなく、
他産業で何かを身に着けてきた人間としての価値を高めていくべきです。
そしてなにより、そういう価値を大事にできる阿部梨園の様な経営者を選ぶことが大事なのでしょう。