オンライン圃場見学会の試み

2012年初頭に長野有機農研穀物野菜部会によって主催された人類初の「オンライン圃場見学会」から始まったスカイプによる圃場見学会や勉強会についてのらくら農場の萩原さんが日本有機農研より会報の「土と健康」へ投稿を求められ原稿にしたものを特別に当ブログにて公開させていただくことが出来ました。スカイプなどを使ったオンラインのコミュニケーションについて平易に解説されていますのでぜひご一読いただき、この冬もまたより多くの方のオンライン勉強会参加があれば幸いです。


オンライン圃場見学会の試み
                         萩原紀行(のらくら農場
 有機農業に関するイベントが各地でありますが、ここ数年、僕は参加したことがあまりありません。行きたいけど行けないという理由があります。シーズン中は4haの栽培面積をまわさなければならないし、3人の子どもの世話もあります。就農して15年も経つと、地域の役もたくさんまわってきます。冬は農産加工所が軌道に乗ってきて、ありがたいことにこれも結構忙しい。農場を支えてくれているスタッフさんにもきちんと給料を払うには、この程度の零細経営は大体において経営者が一番忙しいのが相場です。
 たとえば圃場見学会。シーズン中で一番忙しいときこそが、見学するには一番勉強になりますが、出荷が忙しくて行けないというジレンマを抱えています。
 このジレンマを解消してくれる試みが、僕らの仲間内で広がっています。研修中からの僕の友人である
あさひや農場の関谷さんが、オンラインでの圃場見学会という形を作ってくれました。スカイプという同時通話の通信システムとグーグルのドキュメントを利用します。コンピューターが苦手な方はここで引いてしまうと思いますが、ぐっとこらえてください。何しろ僕自身もコンピュータが苦手で、現在でも携帯電話すら持っていない人間です。そういう僕がやっているのですから、誰でもできます。スカイプはネット上から無料でダウンロードできます。スカイプ同士での会話は無料でできます。同時に25回線くらいがつながるので、25人同時に会話できます。回線が少なければ映像も送れるので、無料でテレビ電話もできます。また、音声会話と同時にチャットでの文字会話もできます。

2月に6週連続で週一回、メイン講師を決めて、オンラインでの圃場見学会の試みが始まりました。参加者名簿をグーグルのドキュメント上にまず用意します。そこにメンバー全員のホームページなどの情報を書き込みます。これによって参加者は全員の経営状態などをある程度把握できます。講師は前もってレジュメをオンライン上に掲載します。参加者は目を通します。前もって質問があったら、これもドキュメントに書き込みます。講師は、当日前に、文字で答えられる質問には答えてしまいます。圃場の写真も掲載しておきます。質問者から使用機械の情報が欲しいとあれば、機械や設備なども写真で掲載しておきます。

さあ、当日です。前もって参加者や講師の情報は皆読んでいますので、自己紹介の時間は不要です。講師に対する質問も答えられるものは答えてもらっているので、残るのは「話さなければ伝わらない内容」のみです。つまり、いきなり核心の話に入れます。

もう一つ、音声会話のほかにチャットでの文字会話を同時に出来るのがポイントとなります。例えば、「これだけの面積に肥料を撒くのにどういう機械を使っていますか。」という質問に、講師が「○○社の肥料散布車です。」と答えると、参加者の誰かが○○社のホームページからその機械の資料を探してチャット画面に貼り付けます。他にも会話に係る重要な情報を思いついた人が、次々貼り付けていきます。一つの講演会が終わったころには、立派な資料が完成しているということになります。通信環境がそろわない「会う会議」よりも数倍の効率で話が進みます。

各自自宅のパソコンに向かい合っている勉強会ですから、途中で「ちょっと子どもをお風呂に入れてきます。」という中座は自由でした。「ちょっとビールとってきます。」なんてのも・・・。話題を呼んで、参加者の各家に5人くらいが集うこともあって、最後は参加者が40人を超えていたと思います。

これは僕が今まで参加した企画の中で最も充実したものでした。参加者の皆さんが、「有機農業で生活していくんだ。」という強い意志があったのと、マナーが素晴らしかったこと、久松さんという(久松農園)会話交通整理の天才が入ってくれていたことが成功の要因だと思います。

その後、長野県の農政関係の会議に呼ばれて参加したとき、会議の質の落差に愕然としました。松本市まで往復3時間の時間をかけて参加し、僕を必要とする時間はたったの10分くらいです。お決まりの自己紹介で時間の半分近くを使い、資料の読み上げに残り時間の大半を使う。内容を検討する時間はほとんどありません。費用対効果としては実に低い会議です。僕に払う交通費も税金ですし、僕も、一日農場を抜けるために人に日当を払って仕事をお願いして・・・。みんなが損をする会議でした。

会う=人間的、ネット=非人間的という構図は偏見です。日本有機農業研究会でも、理事、事務員さんの交通費、時間的負担はかなりのものではないでしょうか。ビデオチャットで会場と結べば負担はかなり減ります。全員がパソコンを持っているわけではないという反論もあるでしょう。そういう場合は、パソコンを持っている近くの会員さんのところで通信すればいいのです。地方の人が東京まで行くよりはずっと時間とエネルギーの短縮になります。

この試みは、単に時間や交通費の軽減という意味合いだけではありません。会うということに縛られると、「集まれる人だけが運営する会になってしまうことへのリスク」があります。この企画に集まった20代~40代の生きのいい有機農家のほとんどが日本有機農研の会員ではないこと、最新の有機農業者マップに掲載されている人もほとんどいないことが象徴的でした。この事実は重く受け止めなければならないと思います。

最後にどんでん返し。結局このメンバーは冬に茨城で、夏にここ佐久穂町で集合しました。会わないでとことん話し合い、あとは「会うしかない!実際に見るしかない!」というところまでエネルギーを高めたので、いきなり核心の話です。集まった時の時間はとんでもなく濃密でした。日本で一番熱い、農業者の空間なのではと思うくらいです。

これを機に、僕たちは、オンラインでのミニ講演会、栽培勉強会などを何度もやっています。夜のちょっと空いた時間を利用しています。手軽なので、講師の方にも参加者にも負担が少ないので、気軽にできます。

ネットがわからない人のために、親切に粘り強くやり方を伝えていった関谷さんにみんなが「この場を作ってくれてありがとう。」と感謝しました。関谷さんは「本当に学ぼうとする人は、ネットの不慣れさの壁を乗り越えてくるね。年齢も関係ない。本格派有機農家は忙しい。その農家同士が本気の交流するのにはこの方法じゃないかな。」と語ってくれました。各地の有機農業団体の皆さん、「会わない」ことで「会うことの精度」を高めてみませんか。あさひや農場さんのブログ「小さな有機農家の為の有機農業情報ブログ」で検索していただくとオンライン勉強会の詳しい段取りが載っています。

日本有機農業研究会発行「土と健康」2012年11月号掲載予定記事より転載

オンライン勉強会の段取りなどは下記記事よりご参照ください。わからないことあればコメント欄などにどうぞ。

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